黒猫knightの銀幕night

古い映画館の片隅に住む黒猫の映画についてのつぶやきです

映画レビュー「私たちは、ちょうどいい。」(2024)YOLO、人生は一度きり

【映画データ】

・タイトル:私たちは、ちょうどいい。

・原題:BOB TREVINO LIKES IT

・製作年度:2024年

・製作国:アメリカ

・監督:トレイシー・レイモン

・出演:バービー・フェレイラ ジョン・レグイザモ フレンチ・スチュワート

・上映時間:103分

・レーティング:G

・ジャンル:実話系 ドラマ


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【あらすじ】

リリー・トレヴィノ(バービー・フェレイラ)は、恋人からの誤送信で浮気を知り、ショックを受けていた。

老人ホームで暮らす父、ボブ・トレヴィノ(フレンチ・スチュワート)と会った時に、彼との別れを告げようとするけれど、父は自分の恋愛話ばかり。

進展しそうな女性との顔合わせを依頼されただけだった。

リリーは初めてカウンセリングを受ける事にするものの、カウンセラーは泣き出してしまう結果に終わる。

父のデートに同行するリリーだったが、その女性も怒って帰ってしまった。

その事に父は激昂。

電話をしても、メールをしても、訪ねてもリリーの謝罪は受け入れられなかった。

リリーはFacebookを開設、子ども時代の父親との写真をUPする。

そして、ふとFacebookで父の名前を検索。

プロフィール写真のない父と同じ名前を持つボブ・トレヴィノ(ジョン・レグイザモ)という男性に友達申請をする。

リクエストが承認された後にUPされたプロフィールで、彼女はボブが父ではなく、近隣のインディアナ州に住む建設マネージャーであることを知る。

「もしかしたら親戚?」という会話から二人は繋がり、ボブはいつもリリーの投稿に「いいね!」をしてくれるようになっていく。

ボブの温かい優しさは、孤独だったリリーを少しずつ変えていく。

【ナイトの覚え書】

原題は『Bob Trevino Likes It』。

直訳すれば、

「ボブ・トレヴィノが“いいね”をした」

このタイトルが、映画を観終わると、とてもじんときます。

本作は、脚本・監督のトレイシー・レイモンが、実生活で父親と同じ名前を持つ見知らぬ男性とFacebookで偶然つながり、その男性から父親のような温かい言葉をもらった経験をもとに作られた、半自伝的な作品。

 

見捨てられることへの不安を抱え、自己評価も低い。

恋人に裏切られ、父親からも絶縁されてしまうリリー。

周囲の期待に応えようとすることが当たり前になっていて、「怒る」という選択肢すら持てない。

人との距離の取り方も、感情の表し方も、とにかく不器用な女性です。

不安を感じると居ても立っても居られなく、極端な行動に出てしまう。

そんな時、SNSで偶然つながったのが、父親と同じ名前を持つ、もう一人のボブ・トレヴィノ。

すぐに父親でないことはわかったけれど、このボブはリリーの投稿に「いいね!」をしてくれる。

それだけ。

それだけなのに、孤独だったリリーの心が少しずつ明るくなっていく。

最初はメッセンジャーで他愛もない会話から始まる。

そして、少しずつリアルな関係へと変わっていく。

人は誰しも、心に傷を抱えている。

そして、身近な人だからこそ、言えない事もある。

誰かに相談するタイミングを逸してしまうこともある。

親子ほど年の離れたボブは、ほどよい距離をわきまえていて、余計なことを言わない。

リリーのことを否定せず、すぐに答えを出そうともせず、ただ話を聞いてくれる。

そして、リリーが暴走して「自分が悪かった」と決めつけて、関係を断ち切ってしまおうとするときも、会話を続けることを諦めない。

ジョン・レグイザモが演じるボブからにじみ出る、思慮深く実直な温かさ。

そして、バービー・フェレイラが演じるリリーの、どこか鈍臭くて、空気を読めないけれど、根っこの部分では人とのつながりを求め続けているキャラクター。

二人の距離が少しずつ変化していく過程に、アンサンブルの妙を感じます。

一つの「いいね!」が、誰かの一日を明るくすることがある。

たった一言の返信が、誰かを孤独から救うこともある。

SNSでの繋がりは、悪い面ばかりが取り上げられるけれど、本作は実際の体験がベースとして、良い方の側面を取り上げています。

人生は一度きり。

YOLO――You Only Live Once.

【銀幕余話】

本作は、完全な実話を映画化した作品ではありません。

脚本・監督を務めたトレイシー・レイモンの実体験をもとにした、半自伝的なフィクションです。

レイモン監督が父親と疎遠になっていた2012年。

父親と連絡を取りたくて、Facebookで父親の名前を検索したところ、同じ名前の別人を見つけ、間違えて友達申請を送ってしまいました。

ところが、その男性はレイモンに対して、とても親切でした。

誕生日を祝ったり、「いいね!」を送ったり、何気ないコメントを残したり。

父親から得られなかったような温かさを、見ず知らずの男性が与えてくれたのです。

そして、このFacebook上の交流は、約9年間続きました。

そして、レイモン監督は、その男性と一度も直接会うことはありませんでした。

映画では二人が実際に会い、友情を深めていきますが、そこは映画ならではの脚色。

レイモン監督は2021年、Facebookで出会ったその男性が亡くなったことを知ります。

彼に、どれほど感謝しているのかを直接伝えられなかった。

そのことから、「彼が自分に与えてくれたものを、映画を通して伝えたい」と考えるようになったといいます。

映画のエンドロールには、

<ボブに捧げる。1951ー2021 トレイシー・レイモンからボブへ>

という献辞が登場します。

ここでいうボブは、映画の中のジョン・レグイザモ演じるボブそのものではなく、レイモン監督が実際にFacebookで出会ったボブへの感謝を込めたもの。

劇中にも登場する幼いリリーの愛犬、チャーリーにも献辞がありました。

レイモン監督の想いが伝わってくる、そんな作品でした。